第一回
有能な人材は農民から探せ!
--農民から総経理へ--
広東省深圳市。ここに、その斬新奇抜な経営理論で世界中から注目を集める経営者がいる。その工場はいつしか「世界最強の工場」と呼ばれ、一年中工場見学希望者が止むことがない。
周辺工場はここの社員を欲しがり、在籍した経験だけでも好条件で即採用される。幹部クラスともなると、転職時の給料は以前の2倍が相場。別名「企業大学」と言われ、多くの人材を輩出し続けている。
「本当にそんな会社がこの中国にあるのか?」と、この記事をまゆつばもので読まれた方へ。
筆者が訪れたその日にも、驚くべきエピソードが生まれていました。社員が自ら廃材を集め、驚くべき低コストでグリーンスペースに水撒きするための「電動散水車」を発明し、その運転日だったのです。(完成するまでの感動ストーリーは、次回以降の連載でお披露目!お楽しみに)

しかしながら、遡ること8年前。この工場は破たん寸前の「お荷物工場」だった。97年にフィリピン華僑により設立。AIWAのOEM先として生産を開始した同社だが、日本からの技術・品質指導の甲斐も無く、設立以来赤字が続いた。そして01年、ついにオーナーが売却を検討。しかし、AIWA、SONY首脳陣も見切りをつけたことで売却が難航。そんな倒産寸前の同社再建に手を挙げたのが、現経営者である新利実業(深圳)有限公司(以下、SOLID)総経理の原田則夫氏(60歳)だった。当時3000人の工場に、たった1人の日本人として乗り込み、わずか1年で黒字化。その奇跡を誰もが目の当たりにした瞬間だった。
「怪物社長」とも言われ、独自の生産システムで世界屈指の生産性、コスト競争力を武器に、一代で優良メーカーを築いた、あの船井電機会長をして「素晴らしい」と言わしめたその原田則夫氏の経営理論。本連載では今後全6回に渡り、その真髄を紹介する。
写真説明:
『夢黒板』(背景)の説明をする原田氏。
全従業員の1年、3年、10年後の夢が掲示されている。夢を明確化(掲示)することで、お互いを認め、尊重しあい、共に「夢に向かって努力する仲間」という、絆が芽生える。
数年前、とある農村から1人の青年がSOLIDへ出稼ぎにやって来た。無論、現場作業員から始まった。給料も域内の最低賃金ベースに残業代がつく程度。周辺の工場の現場作業員と何一つ変わらない。通常、稼ぎたければ残業代を稼ぐために働き続けるか、少しでも給料の高い場所を探し、転々とするしかないのが彼らの置かれる状況だ。
しかし、数年後この青年は給料数万元、上海の現地法人総経理として『転職』を果たした。
~組織作りは優秀な農民集めから~
優秀な農民が勝手に集まる仕組み
ご存知の通り、人材に関する失敗談というと、枚挙にいとまがない。「手塩にかけた人材が辞めてしまった」「他社に引き抜かれた」「すぐ辞めてしまう」等々、誰もが突然のことに唖然とした経験があるはずだ。原田氏に言わせれば、「
それは偶然ではなく、必然」。要は、「やるべき事をやっていなかったから」「起こるべくして起こったこと」なのだ。
では、原田氏ならどうするのか?
その答えが「
明確化・定義化」にある。
ここでは、人材が「会社を辞めよう!」と思う時期を、大まかに「新人期」「中堅期」「ベテラン期」の3つに分け、第一回目は「新人期」の人事採用に絞って詳しく紹介したい。
■辞める原因その1 ≪理想と現実のギャップ≫
明確にすると「
入社前と後のイメージが違う」。SOLIDでは、幹部ではなく、3ヶ月の使用期間が終わったばかりの
新人がリクルート活動を行う。原田氏曰く「何かを伝えるには、より立場の近い者同士の方が共感を得られ、効果も高い」。新人は数カ月間に体験した感動を後輩や地元の友人に自分の言葉で語り、自社の魅力を伝える。これにより、SOLIDの事前情報を的確に把握することができ、入社前と後のズレが無くなる。
■辞める原因その2 ≪上司、同僚との対人関係≫
明確にすると「
疑問が怖くて聞くに聞けない、教えてもらえないのではと不安」。そこで新人には、「
私は新入社員です。皆さん宜しくお願いします」と表示された「新人バッチ」をつけ、分からないことはいつでも
誰にでも質問できる制度がある。逆に質問された側は、即答する義務が課せられ、教える側も常に復習、レベルアップが要求される。この制度によって、先輩が後輩を教え、先輩はさらに学習する環境が自然と生まれる。
■辞める理由その3 ≪ホームシック≫
明確にすると「
親元が恋しい、故郷へ戻りたい」。そこで、在職1年未満の社員を対象に「
リフレッシュホリデー」を設けている。期間は旧正月前の休閑期を挟んだ1~3ヶ月。新人は地元に帰り、郷愁の念を満足させる。しかし、それだけが目的ではない。貧しく、教育機会に恵まれない農村部の文化・知的レベルと、会社で会得した自分の文化・知的レベルの差を思い知る。一度帰郷することを通じて、「俺はこんなにもSOLIDで成長していたのか!」と、実感する。そこに気付いた者は必ず戻ってくるし、定着率も確実にUPする。
■辞める理由その4 ≪他の会社でも働いてみたい≫
明確にすると「
SOLIDという選択が正しかったのか不安」。そこで在職1年以上の優秀な人材には、原田氏自らが推薦状をしたため、他社に紹介する制度、「
ステップアップホリデー」を設けている。休閑期を利用し期間は最長5ヶ月。他の会社で働くことで、いかにSOLIDが自己成長の機会に溢れているかを再認識してもらい、会社への忠誠心・定着率UPを図る。利用した社員の85%以上が戻り、以前の2~3倍は頑張って働くという。
■辞める理由その5 ≪仕事に対するマンネリ≫
明確にすると「
自己成長を褒めてもらいたい」。そこで、「
家庭報」を製作する。(社内報ではなく、「家庭報」というところがミソ)しかも、製作するのは、新人自ら。新しい発見・感動でいっぱいの新人が書くことで、生き生きとした活力溢れる文章になる。それを見た家族は
子供達の驚くべき成長や活躍ぶりを知る。同時に、両親からの感謝状を記事にして新人に配布。この仕組みにより、新人は「家庭報」に表彰・掲載されるよう自然と努力する。「家庭報」の目的は親子間を繋ぐだけでなく、求人案内を掲載し、家族や親戚から人材紹介を受ける役割も担う。
SOLIDの教育は、「すべて人の心に基づいて」考えられている。しかも2重3重にも仕組みが張り巡らされている。これらの仕組みの根源は徹底した、「定義化・明確化」の上に成り立っている。原田氏曰く、「定義化、明確化は、思いやり」。無理に会社に繋ぎ止めるのではなく、SOLIDと共に自分も成長したい!学びたい!という人間だけが会社に残る仕組みを作り、逆に、共感できない人間には早く去ってもらう。これこそ、残る人間、去る人間にとってお互いが幸せになるための最短コースなのだ。
※読者のみなさまへ
今後、連載「世界最強の工場経営」では、読者の皆さまが日頃の経営、当連載で感じた疑問・質問に対し、
原田氏のコメントも交えながら本誌にて、ご紹介していきます。
ご質問
こちらから 、件名に「世界最強の工場経営」と記載ください。
次回は、≪第2回 優秀な人材ほど辞めていく組織を創れ!~組織活性化法 ~≫をお送りします。